ビジネススクールで行う「ケースライティング」とは何か
ビジネススクールではケースメソッドやケーススタディといったケースを利用した授業が多いですが、自分たちでケースを作るケースライティングを取り入れている学校もあります。
今回はビジネススクールで行うケースライティングとは何かについてご紹介いたします。
目次
ケースライティングとは何か
ケースライティングのケースとは、国内外に実在する企業を取り上げ、その経営者やリーダー達が抱える問題や苦悩を物語化して生々しく描写されている教材のことです。
中には架空の会社や社名を伏せている場合もありますが、基本的には実名で作成されている事が多いです。
日本でも慶應ビジネススクールや早稲田大学ビジネススクールなどケースを使った授業を行っている学校がほとんどになります。
授業においてはケースの主人公が解決すべき問題や苦悩を疑似体験します。
受講生自身が、自社において同じような問題に遭遇したときに、リーダーとしてどのように考え、対処すべきかを身につけていくのです。
ケースライティングとはケースを自分で作成する事で、研究して成果物に仕上げていく一連の取り組みのことになります。
ケースライティングの成果物とは
ケースライティングは授業の一環として行われる場合もあれば、名古屋商科大学ビジネススクールのようにMBA2年目に修士論文ではなく特定課題研究、すなわち必修科目として組み込まれている場合もあります。
私が通っていた早稲田大学ビジネススクールではゼミの中でケースライティングがあり、3人程度のチームで1つの企業に対してインタビューや各種メディアなどの情報を合わせて作成させていました。
ちなみに私達のチームではモバイルゲームなどを手掛けているグリー社のケースを作成しました。
名古屋商科大学ビジネススクールでは、卒業前の約10カ月をかけて、「ケース」と「ノート」という2つの成果物を完成させていきます。
ボリューム感でいうと、「ケース」と「ノート」の合計でA4版40~50ページ以内という規定です。
「ケース」というのは、先ほど述べたように、身の回りの経営者やリーダー達を主人公に、そのビジネス上の「苦悩」を描いていきます。
具体例でいうと、
①自社における課題について、自らが主人公となって描くもの
②知り合いが経営者をしている会社の課題について、その経営者を主人公として描くもの
③孫正義さんなど、有名な経営者の会社の課題を、その経営者の自叙伝などを素材として描くもの
などがあります。
①、②の場合は、公開できないケースもありますので、その場合は、架空の会社名や架空の登場人物にしたり、最終提出の際に「非公開」扱いとして提出します。
そして、その「ケース」を通して、学生や読み手に学んでほしいことを「解説」として整理したもの、これを「ノート」といいます。
学校の試験に例えてみましょう。「ケース」というのは「問題」です。そして、「ノート」というのは、その問題に対する「解説」です。
これらを、担当教員に指導してもらいながら完成していきます。
皆さんなら、「ケース」と「ノート」のどちらを先に書き上げるべきと思いますか?
これもプロジェクトを進めるうえでのポイントの一つです。
ここからは、どのようにしてこのプロジェクトを進めていくか、を解説していきます。
ケースライティングに必要となる代表的なスキル
ケースライティングに必要となる代表的なスキルについて見ていきましょう。
文章力
ケースは自分で文章を書き上げていく必要があるため、当然ながら文章力が求められます。
普段仕事でレポートやプレゼン資料などを作る機会が多い方もいると思いますが、長文を書いたりアカデミックな文章を書く機会というのはあまり多くないのではないでしょうか。
一つの読み物としてはやはり構成力やストーリー性も重要になってきますので、他のケースを読み込んでみてどのように書いていくべきか戦略を練っていくのがおすすめです。
プロジェクトマネジメントスキル
ケースライティングは比較的時間がかかるため、スケジュール管理やチームの場合には役割の分担などが重要になってきます。
プロジェクトの進め方には様々な方法がありますが、WBS(Work Breakdown Structure)のように作業工程を細かなタスクに分解し、構造化することで管理していく手法を取り入れていることも多いです。
先ほど述べた「ケース」が先か、「ノート」が先かという問題についても、WBSを作成し、可視化することで解決できます。
引き出す力
ケースを書き上げるためには、当然にして「素材」が必要です。
そのためには、物語の主人公である経営者やリーダーに対する取材が必要となります。
では、この取材に際して必要となるスキルは何でしょうか。それは、「仮説構築力と検証力」です。
取材とは、仮説検証の場です。やみくもにヒアリングを行っても、必要となる情報が過不足なく獲得できる保証はありません。
ケースの取材は無料でお願いしている場合が多く、企業側からするとあまり多くの時間を割くのが難しいといったこともあり、限られた時間の中で、必要となる情報を引き出せるかどうかが勝負になってきます。
そのためには、主人公が抱えていた悩みとその背景、そして解決策に至る思考プロセスなどについて仮説構築し、取材を通じて検証していく力が必要となるのです。
ロジカルシンキングとフレームワーク活用力
ケースを執筆する過程においては、通常「ケースクエスチョン」といって、受講生に対する問いかけを設定することになります。
そして、それぞれのケースクエスチョンに対する回答を行っていくためには、ケースに記載された膨大な情報をもとに「現状分析」→「課題設定」→「解決策の検討」を行っていくことになります。
この「現状分析」→「課題設定」→「解決策の検討」のプロセスに客観性と説得力を持たせるためには、ロジカルシンキングとフレームワークを活用する力が必要不可欠となります。
例えば、ロジカルシンキングの観点では、解決策がヌケモレなく検討されているか、各要素の粒度がそろっているか、などがポイントとなります。
時には先行研究を調査の上で、論理構成を組み立ていく場面もあります。
また、フレームワークの観点では、SWOT分析、PEST分析、5F分析、BCG-PPM、アンゾフのマトリックスなど、様々なフレームワークの目的を理解し、適切なタイミングで活用できるか、という力も問われることになります。
ケースを解くのとは別の経験やスキルアップに繋がる
ケースライティングの作成過程においては、対象となる企業や経営者、リーダーの内面にも向き合うこととなります。
授業でケースを行うのとは別のやりがいや楽しさがある反面、制作には時間と工数もかかりますのでそれなりの準備とスキルも必要となるでしょう。
名古屋商科大学ビジネススクールで作成されたケースの中でも良くできているケースは日本ケースセンターで販売されていますので、参考としてみてもよいかもしれません。
参考:日本ケースセンター