大学で卒業論文に苦労した人やレポートを書くことも嫌いだった人にとって、「修士論文」はMBA(ビジネススクール)を目指すにあたってのハードルになっているかもしれません。

MBAは必ずしも論文が修了要件ではありません。

いくつかの代表的なビジネススクールを例に挙げてみていきましょう。

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MBAにおける修士論文とは

MBA(ビジネススクール)における修士論文の意義についてご紹介いたします。

修士論文不要論

「MBAで修士論文なんて必要ない」という声もあります。

海外MBAでは基本的に修士論文は求められていないため、これと比較して修士論文が必要ないという説があるのです。

ですが、これをそのまま鵜呑みにするのは早いと言えます。

海外MBAは基本的に成績が相対評価です。

Aを取る人は全体の15%、Bは30%、Cは30%、Dは20%、不合格は5%のように決められています。

一方、ほとんどの国内MBAは絶対評価です。クラスの8割がA評価ということもあり得ます。

有名なハーバードビジネススクールではそのクラスで「不合格」という評価をもらう人が1割ほど出ることもあり、周囲と競争し良い成績を獲得しなければなりません。

このような競争を経てビジネスリーダーとしての訓練を受けている海外MBA生とは異なり、国内MBAは授業に出席し、決められた課題を出し、各コマ1回程度発言するくらいで単位が取れ卒業できます。

国内MBAは「競争」が学生間に生じない分、修了論文でテーマ、リサーチクエスチョンを決め、仮説を立て検証した世の中に貢献できる論文を書き上げることで海外MBAにも劣らない価値を得られると言えるでしょう。

修士論文を修了要件にしていない学校はダメなのか?

では、修士論文を修了要件にしていない学校がダメなのかというと、そういうわけではありません。

修士論文不要論にはもう一つあり、研究者養成機関ではないので修士論文に時間を割く必要がそもそもあるのか?という議論があります。

「修士論文」でなくとも自社の課題に対してのリサーチペーパーや、プロジェクト論文などの提出を修了要件にしている学校もあります。

また、論文としての提出を求めていなかったとしても、京都大学のようにそれに匹敵するようなハードルを修了要件に掲げている学校もあります。

どのくらいの負荷があり、2年間学ぶことで自分が成長できるのかという視点で学校選びをすることが良いでしょう。

簡単に卒業できるということは、人脈形成のような副次的なものはさておき、学びの面では得られるものが少ないかもしれません。

また、そもそもゼミがないグロービスなどは修士論文以外の論文執筆もありません。その分講義やグループワークを重視していると言えるでしょう。

表:各大学院の主旨論文状況抜粋(2022年1月30日検索)

修士論文必須 国立 筑波大学 一橋大学 神戸大学 横浜国立大学
公立 東京都立大学
私立 慶應義塾大学 早稲田大学 立教大学 明治大学
修士論文必須ではない 国立 京都大学(修了のためには、インターンシップや留学、英語開講講座受講などの要件あり)
私立 青山学院大学(修了のためには青山アクション・ラーニングなどを受講する方が多い)
法政大学イノベーション・マネジメント(修了のためにはプロジェクト・メソッドによるリサーチペーパー作成/個人ORグループで提出)

修士論文の具体的な進め方

ここでは、リサーチペーパーやプロジェクト論文ではなく「修士論文」を具体的にどのように進めていくか見ていきます。

例として、早稲田大学大学院経営管理研究科の、夜間主マネジメント専修プロフェッショナルコース(以下、WBS夜間主プロ)を挙げます。

WBS夜間主プロは、受験時にどの分野のどの先生について学ぶかを決めます。

2022年度募集においてはマーケティング/人材組織マネジメント/事業創造とアントレプレナー/グローバル経営/技術・生産マネジメント/スポーツビジネスの6つのモジュールが用意されています。

このいずれかを目指して受験をします。

受験時に提出する研究計画書において修士論文の研究テーマ、仮説を記載します。

合格後は1年次の4月からゼミが始まります。

このゼミは2年間続きます(教員やゼミ生との関わり方としては大学の学部時代のゼミと同じようなものとイメージください)。

研究の基礎や知識を学び、先行研究を読み、ゼミの仲間同士で議論し自分の研究テーマについて深堀りします。

「別の切り口の方が本質に迫れる」、「世の中に対するインパクトが大きいのはこちらの研究ではないか」などゼミを通して、研究テーマが変わることがあります。

WBS夜間主プロの場合は入学前の研究計画書のテーマそのままではなく、学んだ結果としてこれを研究テーマとしますという申請を1年次に提出します。

そこから1年次の終わりから2年次にかけて本格的にテーマに迫っていきます。

2年次にはリサーチクエスチョン(「〇〇が△△なのはなぜか?」という問い)に対してさらに先行研究を読み、関連する文献や調査データを読みます。

調査データは大手シンクタンクや各省庁が発表しているものも参考になります。日経テレコンなど活用して資料を集めることも良いでしょう。

そして自分のリサーチクエスチョンの場合はどうか、先行研究などで言われていることに当てはまるのかと考え、アンケート調査やヒアリング、観察などを行います。

このプレ調査を分析し、仮説を立てていきます。

この仮説が本当に正しいか、プレ調査時よりも広くランダムにアンケート調査を行い、相関関係を調べるなどして仮説の証明を行います。

仮説が誤っていれば、調査をし直す、もしくは「世間ではこの説が唱えられていたが実は違っていた」という結論として論文を書くこともできます。

これを、論文の書き方、作法にしたがって書いていきます。

分析の方法は授業でも科目として設けられていますし、作法についてはゼミで指導があるでしょう。

論文が仕上がり提出するのは卒業年の1月ころです。

2月に論文に対する口述試験があり、そこで合格して、さらに取得単位が十分であれば修了できることになります。

2年間あっても、時間はあっという間に過ぎていき、多くの学生が提出日のギリギリまで苦しむことになります。

時間のマネジメントは非常に大切であるため、多くの人が1年次にゼミと修士論文以外の必要単位数を取るよう努力します。

基本は上記のスケジュールですが、ゼミの進め方は教員により大きく異なっています。

これはどの学校でも同じであると思います。

WBS夜間主プロの場合は、ゼミ生に1年次に論文を書かせ学会発表を経験させるゼミ、プレ調査やデータを集めたり先行研究を徹底して行い論文本文になかなか着手させないゼミ、1年次の初めから毎週途方もない課題があるゼミ、世界的にこの分野のバイブルと言われている書籍を輪読するゼミ、海外視察に行き英語でプレゼンするゼミなど様々です。

修士論文にだけ集中するわけではなく、他の課題などやるべきことをこなしながら仕上げていきます。

修士論文を書きあげて得られること

最後に、修士論文を書き上げると何が良いのかについて言及します。

ここまで見てきたように、修士論文を書き上げるには大きな負荷がかかります。

ひとつのテーマやリサーチクエスチョンについて深く考え、調査・検証し、論文としてアウトプットする経験はなかなかできるものではありません。

MBAの志望動機として経営学の体系的な学びを挙げる人は多いでしょう。

修士論文はこの体系的な学びを総動員して考える機会にもなります。

また、修士論文は書き上げて終わるわけではありません。

各校のリポジトリで公開すれば、自分の論文が誰かの役に立つもの・参考になるものとして残るのです。

そのように後輩や世に貢献できることにもなります。

成果として修士論文を残すことには非常に意味があると考えます。

MBAに通う目的にもよりますが、修士論文は時間がかかりそうで大変だなと最初から断念せずに、自分のためになるということも踏まえて学校を選ぶことをお勧めしたいと思います。

この記事を書いた人
この記事をかいた人 太田 卓(MBAゼミナール プログラムディレクター・講師)証券会社、IT企業役員、ベンチャー企業などを経て2017年7月株式会社Milkyways設立。2022年より国内ビジネススクール(MBA)の入学対策予備校・塾であるMBAゼミナールをスタート。 早稲田大学大学院商学研究科専門職課程ビジネス専攻(現:経営管理研究科)修了。